これは、ビル・ゲイツが2023年に書いた「AIのリスクは現実だが管理できる」(Gates Notes) についての、私たちの読み解きだ。原文 (英語) は こちらから →
まず、ひとつ受け止めてほしい。
あなたは歴史上はじめて、「いま見ているこの動画は、偽物かもしれない」を初期設定にしなければならない世代だ。政治家のスピーチも、有名人の一言も、友達の音声メッセージすらも、AIで合成されている可能性があり、その合成はどんどん精巧になっている。ゲイツは2023年にこう書いた。「ディープフェイクと、一人ひとりに合わせて仕立てられる誤情報の時代に、真偽を見分ける力は、生きるための必須スキルになる。」三年経ったいま、それはもう注意ではない。毎朝、スマホがあなたの目の前に差し出してくる現実だ。
これは怖い話だ。だが、同じ論考の中でゲイツはもうひとつのことも書いていて、それには十分な根拠がある。
「私たちがこのリスクを管理できると信じるいちばんの根拠は、これまでにも同じことをやってのけてきたことだ。」
どういう意味か。あなたは経験していないが、あなたの親世代はくぐり抜けたひとつの波を思い出してみよう。1990年代の終わり、詐欺師たちが「ナイジェリアの王子」を名乗って、送金を手伝ってくれれば財産を分ける、というメールを撒いた。最初は多くの人がひっかかった。少しずつ、人々は学んだ。いまあなたが詐欺メールを見ても、立ち止まって考えるまでもない。あの反射神経は、時間が育てたものだ。ディープフェイクについても、同じ筋肉を育てなければならない。ただし、もっと早く。
ゲイツが挙げるもうひとつの比喩は、もっと役に立つ。
電卓が教室に入ってきたとき、ある算数の先生たちはパニックになった。子どもが算術を忘れるだろう、と。別の先生たちは向きを変えて、算術の「うしろにある理屈」を教えはじめた。繰り上がりはなぜそう動くのか、小数点はなぜそこに置かれるのか、足し算はお店で本当は何をあらわしているのか。前者の先生たちは電卓に負けた。後者の先生たちが育てた子どもたちは、電卓より強くなった。理屈を分かってしまったからだ。
あなたはいま、AIと同じ分岐点に立っている。AIはあなたの宿題を書く、これは事実だ。問題は、そのせいであなたが弱くなるかどうか、だ。
ゲイツは、Cherie Shieldsという英語の先生が2023年に『Education Week』に書いた記事を引用している。彼女はChatGPTを禁じなかった。逆に、ChatGPTを軸に授業を組み立てた。プロンプトの書き方、生成された下書きの読み方、どこがまずいかの見つけ方、より良い版へ書き直す方法。彼女の生徒は「書く量が減った」のではない、「もっと上手く書けるようになった」のだ。彼女にとってAIは、砥石であって、代筆屋ではなかった。
あなたも、同じことができる。
AIが何かを書いてきたら、そのまま提出しないこと。三つのことを、先にやる。
一、声に出して読む。空虚な、飾りだけで中身のない文が耳に残る。それはAIの口ぐせであって、あなたの言葉ではない。
二、具体的な主張をひとつ選び、確かめに行く。AIが「研究によれば」と書いた。誰の、どの研究か、どの雑誌に載ったのか。見つからなければ、消す。見つかれば、あなたは本当に何かを学んだことになる。
三、いちばん大事な段落を、自分の言葉で書き直す。でき上がった文は、あなたに近く、けれど滑らかさは減っている。その粗さこそが、あなたの署名だ。
合計しても十分ほどだ。しかしこの十分間がやるのは、AIを「もう一回宿題をこなすための道具」から、「もう一回頭を鍛えるための道具」へと変えることだ。
画像と動画については、ルールはもっと単純だ。
感情が大きく揺れる何かに出会ったら、特に強い怒りや、感動や、恐怖を感じたら、いったん止まる。三つの問いを、自分に投げる。
これはどこから来た? 一次の出どころか、それともスクリーンショットの、そのまたスクリーンショットか。
私がこれを信じることで、得をするのは誰か。アクセス数か、ある会社か、ある政治的な陣営か。
もしこれを偽物だと証明したいとしたら、私は何を調べるか。逆画像検索は? もとの映像は?
この三つの問いが反射になるまで練習すれば、あなたはグループチャットで最初に「待って、これは偽物かもしれない」と言える人になる。三年後、その人こそが、いちばん信頼される人になる。
最後に一つ。
あなたの同級生たちは、すでに二つの山に分かれつつある。ひとつは、AIに宿題を終わらせてもらい、投稿の文章を書かせ、謝罪のメッセージまで代筆させ、少しずつ自分で考える力を失っていく側。もうひとつは、AIを砥石として使い、より速く、より明快に、真偽をより見分けられるようになっていく側。十年後、この二つの山は同じスタートラインには立たない。あなたがどちらに立つかを決めるのは、ほかの誰でもない、あなた自身だ。
### 立ち止まって考えたい問い
一、最後に「これは強烈だ」と感じた動画や画像をシェアする前、あなたは出どころを確かめに行ったか。行かなかったとしたら、どのくらいの速さで手放した?
二、身のまわりに、いちばんよく「待って、これは偽物かもしれない」と言い出す人はだれ? その人はこのグループに何をもたらしている?
三、一年後、先生がクラス全員に「この課題ではAIを使ってよい」と伝えたとする。その日のあなたは、「AIが宿題を終わらせてくれた」側の生徒でありたいか。それとも、「AIで書くのがうまくなった」側の生徒でありたいか。
出典: Bill Gates
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